本研究では、人工染色体及び機能的セントロメア形成とDNA複製との関連を明らかにすることを目的として、解析が進んでいるEBウイルス複製起点(oriP)を人工染色体候補YACへ挿入し細胞周期に一回強制的に複製を行わせた場合、このYACが人工染色体形成効率や染色体安定化に影響を与えるかどうかについて研究を進めた。効率の良い複製起点の獲得により、導入YACは重複化をおこさず、より小さく安定な人工染色体を形成するか、或いは逆に重複化自体がセントロメア機能に必要であった場合には、人工染色体形成効率の低下を引き起こし、キネトコア蛋白質の集合を阻害すること等も予想される。 先ず、EBウイルス複製起点(oriP)のうち複製に必須なDS(Dyad Symmetry)配列を、人工染色体候補YACへ酵母細胞内での相同組み換えを利用しながら組み込んだ。このYAC DNAを精製し、ヒト培養細胞HT1080ヘリポフェクション法で導入した。形質転換細胞株については、EBNA1発現の有無、oriPの有無により、人工染色体の形成効率、人工染色体の安定性、キネトコア蛋白の集合能などに与える影響について解析を進めた。これまでの解析結果からは、EBNA1が発現していると、oriPの有無に依存せず、短期的には形質転換細胞がよく増殖したが、長期的に生き残る細胞は得られなかった。EBNA1が導入YAC DNAへ結合することで、むしろ人工染色体形成を阻害している可能性が示唆された。現在、再度YAC DNAを精製、細胞へ導入し、この結果の再現性について解析中である。これらの解析から不明な点が多い哺乳動物の複製やセントロメア機能とクロマチン構造との関連を明らかにできるものと期待している。
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