生きた1細胞の、内在性プロテアーゼ活性定量法の確立が、本研究の目的である。我々は、細胞膜不透過性の蛍光物質として、7-aminocoumarin-4-methanesulfonic acid (ACMS) を開発した。ACMSにペプチドを結合させると、各種の細胞内プロテアーゼ基質が合成できる。 ウニ卵(タコノマクラ卵)にSuc-Phe-Leu-Arg-ACMSをマイクロインジェクションし、受精時におけるプロテアソーム活性を求めた。驚くべきことに、受精後3分で基質分解初速度(Vo)は、受精前の約10倍にも上昇していた。一方、pH感受性蛍光色素BCECFを用い測定したところ、受精によって、細胞内のpHは7.2から7.5に上昇することが明らかになった。そこでpH7.5のバッファをマイクロインジェクションして細胞内pHの上昇を引き起こしたところ、受精なしでプロテアソームの活性は上昇した。このときEGTAを同時にマイクロインジェクションして、細胞内のカルシウム上昇を抑えても、プロテアソームの活性化は起こった。したがって、受精時に引き起こされる細胞内pHの上昇によって、プロテアソームが活性化されるが、この活性化は細胞内遊離カルシウム濃度の上昇には依存しないことが明らかになった。大変興味深いことに、ヒトデ卵を用いて作成したcell free系においても、使用するバッファのpHを上昇させると、サイクリン分解が促進されることが明らかになった。このことは、一般にプロテアソーム活性が細胞内pHに依存して制御されている可能性を示唆する。
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