ヒト脳波の研究では、随意運動発現や認知など高次の脳機能に伴い20Hz以上の比較的高い周波数帯域でのオシレーションが増加する。動物実験によるニューロン活動解析やフィールド電位の解析でもガンマ帯域(20-70Hz)のオシレーションが記録され、周期的活動による多数の細胞活動の同期化の仮説が提唱されている。一方、スライス実験によれば、ラット大脳皮質内にはガンマ帯域のオシレーションを起こす膜特性をもったニューロン・タイプ(FRBニューロン)が存在する。そこで、FRBニューロンが大脳皮質内のガンマ帯域オシレーションの担い手である可能性を考え、学習課題遂行中のサルの前頭葉からニューロン活動を記録し、FRBニューロンの特徴(2-3ミリ秒の短く安定したスパイク間隔のバーストとその繰り返し)を持つニューロン活動を検索した。その結果、無麻酔のサルでもFRBニューロンの特徴を示す細胞が存在し、しかもこのタイプのニューロンの一部は、記憶学習課題遂行の特定のイベントのときに集中してバーストを起こすことが明らかになった。さらに、1本の電極からFRBニューロンと同時に記録したあるバーストしない細胞(Regular Spiking Neuron、RSニューロン)はFRBニューロンのバーストの後に必ず活動電位を出しており、FRBニューロンが興奮性のニューロンである可能性を示唆していた。このニューロンは対連合課題における特定の手掛かり刺激呈示の後半でガンマ帯域の繰り返しバースト発火を示しており、この結果は、学習課題遂行の特定の処理過程に関連するニューロン群がFRBニューロンによって同期的に活動する可能性を示すものと思われる。
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