研究概要 |
高次脳機能のシステム的理解のため、思考・推論などの高次処理の対象として、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)を取り上げる。平成11年度は第一に、前頭葉損傷患者のデータを入手した。第二に、ワークステーション上に構築した新修正WCST用被験者実験システムをWCST用に変更した。第三に、この実験システムを用いて30人の被験者に対して被験者実験を行なった。第四に、構築済みのWCSTの思考・推論モデルを改良し、いわゆるハイパーパラメータを推定することによりモデルの最適化を行った。 WCSTでは被験者は正誤のみが教えられる。従って正答が得られた場合にはこれを強化し、逆に誤答が得られた場合にはこれを弱めるという最も単純な強化学習を用いた。連続正答達成カテゴリー数、Milner型保続性誤り数、Nelson型保続性誤り数などの診断に利用されているさまざまな指標値がモデルのそれと合致するよう、モデルに含まれる3種類のハイパーパラメータ(正答時の学習率、誤答時の学習率、繰り返し学習回数上限)を最適化した。 ここでの実験サンプル数は、正常者30人、無症候性脳梗塞患者38人、パーキンソン患者48人、アルツハイマー患者7人である。正常者の場合のハイパーパラメータとして、正答時および誤答時の学習率(56.8,51.7)、パーキンソン患者の場合には、(27.0,19.0)アルツハイマー患者の場合には、(3.00,2.32)が得られた。前頭葉損傷患者の学習率が小さいことが、過去の規則あるいは誤回答にとらわれて誤りが多くなる一因であることが示唆される。これにより、正常被験者と無症候性脳梗塞患者、パーキンソン患者、アルツハイマー患者の各カテゴリーのハイパーパラメータ値をグループ化し、人間の類型化が行える。またこれにより、規則発見が得意な人と不得意な人の相違がどこにあるのか、規則発見が効率化するための方策などに関する知見が得られるものと考えている。
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