手の操作運動をコントロールするにはターゲットとなる3次元物体についての両眼視による視覚情報とともに、遂行中の手操作運動の立体的視覚性フィードバックの情報が必要である。サルの頭頂間溝外側壁前方部にあるAIP野において手操作運動に関わるニューロン活動を記録し、特にその視覚的な性質について調べた。実験では、いろいろな形の3次元物体を用いて、それらを手で掴んで引っ張る手操作課題や物体の注視課題をサルに訓練した。この中で、物体を注視するだけの課題でも反応する対象型のニューロンは、操作の対象となる物体の3次元的な形や大きさ、傾きなどに選択的に反応し、物体の視覚的な3次元的特徴を表現していると考えられる。また、暗いところで反応がなくなるか弱くなるが物体の視覚課題では反応しない非対象型ニューロンは、操作する時の手の形がよく似ている物体で同じ程度の反応を示す傾向が認められた。そこで、非対象型ニューロンの反応をもとに多次元尺度法を用いて物体の類似性を検定すると、操作中の手の形がよく似ている物体が互いにかたまってプロットされた。以上の結果から非対象型のニューロンは、現在進行中の手の運動を視覚的に3次元的にモニターする視覚性フィードバック信号としての役割を担っていると推測された。現在、これを直接検証するために小型ビデオカメラでサルの手の運動をオンラインで撮影し、サルにモニターで自分の手の動きをみながら操作運動を行う課題を訓練中である。この課題では自分の手の運動は見えるが操作する物体は見えない条件を実現しており、物体を操作する手の映像がいかにニューロンの発火に関わっているかを検討することが可能である。さらに、2台のビデオカメラを用いてヘッドマウントディスプレイで立体映像化した手の運動をサルに見せながら手操作運動を行う訓練も行い、視覚性のフィードバックと両眼立体視との関係についても調べる予定である。
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