頭頂葉皮質、小脳、扁桃体、海馬、室傍核の時計遺伝子mPerlやmPer2の発現にどのようなリズムが見られるか、in situ hybridizationを用いて明らかにした。その結果、視交叉上核のmPerlやmPer2遺伝子発現は昼間高く、一方、頭頂葉皮質、小脳、室傍核の遺伝子発現は、夜の始まりに高いという夜行性のリズムを示す事が明らかとなった。一過性の拘束ストレスや、強制水泳ストレスを与えた場合、mPerlやmPer2遺伝子発現ならびにそのリズムがどのように変調するかを調べた。1時間の拘束ストレスもしくは15分の強制水泳負荷を行なうと、マウスの室傍核で、著明な一過性のmPerlやmPer2遺伝子発現が見られた。また、扁桃体においてもその作用強度は低いものの、同様の作用が見られた。一方、視交叉上核のmPerlやmPer2遺伝子発現はいずれのストレス負荷によっても、何ら影響を受けなかった。本研究結果から、動物にストレス負荷を行なうと、室傍核の時計遺伝子発現を増大させる事が分かった。これらの事が室傍核-下垂体-副腎皮質ホルモン分泌の日内変動(活動期の前にピークを持つ)に破綻をきたす可能性が示唆された。 ストレス負荷が他の脳部位の時計遺伝子発現に影響を及ぼした事から、情動性異常動物として、老化動物を使用し、これらの動物の時計遺伝子発現について調べた。老齢動物(24ヶ月齢のラット)では、視交叉上核のmPerlやmPer2の遺伝子発現は若齢群と全く同一の発現パターンを示したが、大脳皮質、小脳では、発現リズムの振幅低下と、位相の前進が見られた。すなわち、老化動物に見られる睡眠-覚醒リズムの乱れは視交叉上核に起因するのではなく、他の脳部位のリズムの乱れに起因する事が、強く示唆された。
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