これまでの出芽酵母を用いた解析から、非相同組換えに関わる数多くの因子がテロメア長の正常な長さの維持に必要であることが示されてきている。分裂酵母のゲノムプロジェクトで明らかになったDNA配列中より、出芽酵母で非相同組換えに関与するYku70の相同遺伝子を見い出し、pku70+と命名した。この遺伝子の破壊株では、外来プラスミドの非相同組換え修復効率が低下していることを見い出し、分裂酵母においてもKuタンパク質が組み換え過程に関与していることを明らかにした。また、欠損株は野生型株にくらべ短小化したテロメアを有していた。その一方で、分裂酵母のKu70欠損株は出芽酵母の相同因子の欠損株でみられるようなテロメア近傍での転写抑制(サイレンシング)の顕著な欠損の表現型は示さない。この結果により、両酵母において組換え修復系因子がテロメア長の長さの制御においては類似な機能を果たすものの、テロメア高次構造形成には関与の仕方が種により異なるということが明らかになった。また、pku70欠損株ではテロメア最末端の一本鎖DNAがより露呈されていることが見い出された。このことは分裂酵母Pku70タンパク質が、テロメア末端の構造維持の過程に関わっていることを示している。Pku70の欠損とATM関連遺伝子rad3の欠損はテロメア長維持において相加的な効果を示さない。このことは、Kuタンパク質の機能がRad3により調節されている可能性を示唆しており、現在その詳細な機構の生化学的な解析を行っている。
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