本年度は、主として、ディファレンシャルディスプレイ法、すなわち、クローン化したネズミマラリア(P.yoelii)の強毒株(17XL)と弱毒株(17XNL)からmRNAを抽出し、非特異的なPCR増幅をおこなった。この結果、17XLならびに17XNL間にmRNAの発現量に差を認める、一遺伝子を分離した。この本遺伝子は少なくとも二つのmRNAスプライシング・アイソフォームを持ち、弱毒株(17XNL)にlongアイソフォーム(0.9Kb)の強い発現を、強毒株(17XL)にshortアイソフォーム(3Kb)の比較的に強い発現を認めた。現在までのgene bankにおける検索では、shortアイソフォームはいかなるマラリア遺伝子にも相同性を有さず未知である。現在はこの遺伝子の全長(longアイソフォーム)をP.yoelii遺伝子ライブラリーからスクリーニングしている段階である。さらに、shortアイソフォーム中の配列を用いてマウスを免疫し、ポリクローナル抗体により、メロゾイト内での発現部位ならびに発現量を検討中である。以上の結果から、P.yoelii強毒株(17XL)と弱毒株(17XNL)の間には、遺伝子発現において明らかな相違が存在すること、また、この差を明らかにすることは、メロゾイトの赤血球侵入・増殖メカニズムの解明やワクチン開発戦略に成り得ることが明らかとなった。今後は、この遺伝子を用いて、マラリア原虫の赤血球侵入とその病態(致死、非致死)における関連に接近したいと考えている。
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