本研究の特徴はCD19トランスジェニックマウス、CD19ノックアウトマウスおよびCD22ノックアウトマウスを用いてin vivoにおける自己抗体産生を来す「シグナルのバランスの異常」を、CD19あるいはCD22を介して活性化あるいは抑制されるシグナル伝達分子を同定することによって、分子のレベルで明らかにしようとすることである。CD19トランスジェニックスマウスではB細胞数が少なく、実験には主にCD19ノックアウトマウスおよびCD22ノックアウトマウスを用いた。B細胞全体としてのチロシンリン酸化は、CD19ノックアウトマウスでは抗IgM抗体刺激前および刺激後ともに著明に減弱していた。これに対して、CD22ノックアウトマウス由来B細胞では一部のシグナル伝達分子にチロシンリン酸化の減弱が認められたものの、全体としては野生型マウスと大きな差はなかった。次に、免疫沈降法を用いて各シグナル伝達分子におけるチロシンリン酸化を検討した。CD19ノックアウトマウス由来B細胞では、野生型マウス由来B細胞と比較して抗IgM抗体刺激後、Vavのチロシンリン酸化が減弱していた。一方、CD22ノックアウトマウス由来B細胞では抗IgM抗体刺激後、Vavのチロシンリン酸化は亢進していた。このVavチロシンリン酸化は抗CD19抗体で刺激しても亢進していた。このように、VavはCD19とCD22のシグナル伝達経路の下流にあって、CD19とCD22によって逆方向に制御されるシグナル伝達分子であることが明らかとなった。この事実によって、VavがCD19とCD22の下流にあって、自己免疫を制御するシグナル伝達分子の候補である可能性が考えられた。
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