生理学的あるいは病理学的側面から、近年、転写因子NF-κBに対する注目が集まっている。NF-κBはその阻害タンパク質であるIκBのリン酸化、引き続き起こるIκBのユビキチン化、プロテアソームによる分解により、活性化状態となり、核に移行する。本研究では、IκBのユビキチン化の分子機構の解明を目的として、はじめにIκBのin vitroユビキチン化系を確立した。最近の報告で、IκBのユビキチンリガーゼE3のコンポーネントとしてF-boxタンパク質βTRCPが同定された。この分子は、Skp1、Cullin1タンパク質とともに複合体を形成し、SCF複合体と称されるE3のファミリーに属する。我々は、ユビキチン化活性化酵素E1、IκBkinaseのcatalyticなサブユニットIKKβ、βTRCP、Skp1、Cullin1および基質であるIκBをバキュロウイルス発現系により、ユビキチン結合酵素E2としてUBCH5を大腸菌の発現系により、大量発現させて、これを精製後、in vitroユビキチン化アッセイを行った。その結果、上記成分のみでは十分なユビキチン化が観察されなかったので、最近になりSCF familyのcomponentとして見つかったRoc1タンパク質が、このIκBのin vitroユビキチン化を促進するかどうかを検討したところ、Roc1存在下でユビキチン化が観察された。さらに、Cullin1の修飾因子としてユビキチン様タンパク質Nedd8が報告されているが、Nedd8修飾系の酵素群、APPBP-1、Uba3、UBC12およびNedd8のリコンピナントタンパク質を調製し、上記のIκBのユビキチン系に加えたところ、ユビキチン化が飛躍的に上昇した。細胞内ではこのNedd8修飾系によるユビキチンリガーゼの活性調節が、IκBキナーゼ系と共役して、NF-κB活性化の情報伝達に関与している可能性が考えられる。
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