亜硝酸還元酵素(NiR)は、高等植物の葉や根における硝酸還元の第二番目の酵素であり、NiRは亜硝酸→アンモニア還元反応を触媒する必須の酵素である。しかし、申請者はNiR活性を大幅に欠損したタバコ(NiRcDNAをアンチセンス方向に発現させNiRのmRNAを欠く)が(少なくとも8時間-2週間の間では)野生株と同程度の硝酸還元能を持つことを示す事実を発見した。本研究は、「NiRは亜硝酸→アンモニア還元反応を触媒する必須の酵素であるか」を目的とし、本年度以下の成果を得た。NiRcDNAをアンチセンス方向に発現させたタバコclone271の葉や根のNiR活性は検出限界に等しく、またノザン分析ではNiRmRNAを検出できないとの結果を得た。clone271の硝酸同化量(8時間-2週間栽培)は野生株と同程度であった。また、野生株に匹敵する重窒素ラベルのアンモニアの生成が認められた。これらの結果は、本クローンが、亜硝酸還元酵素活性が野生株に比して大幅に低下しているにもかかわらず、野生株と同程度の硝酸還元能を持っていること、またその代謝産物としてアンモニアを生成することを示すものである。NiR酵素の活性染色を行い、野生株とclone271の両者において、NiR酵素活性を示すバンドが少なくとも二本検出され、両バンドの電気泳動移動度は、野生株とclone271の両者で、ほぼ一致した。この内一つのバンドは、抗NiR抗体と反応した。この結果はclone271において、「残留」NiR酵素が存在することを示唆するものである。野生株とclone271において、抗SiR抗体と反応する明瞭なバンドが一つ検出されたが、このバンドは、上述のNiR以外のもう一つの活性染色バンドと一致すると断定できず、さらに詳細な研究が必須である。
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