発生過程で細胞の多様性を作り出すための基本的なプロセスは非対称な細胞分裂である。その典型のひとつは神経幹細胞の分裂であり、非対称分裂に伴って転写因子prosperoとmirandaが神経幹細胞の姉妹細胞に不等分配される。本研究では、このmirandaの不等分配を手がかりに、神経幹細胞の細胞分裂に伴う分化因子の非対称分配が神経の運命決定に果たす役割、その非対称分裂を制御する細胞極性の分子的実体を明らかにすることを目的とする。そのために、神経幹細胞の細胞分裂に伴うMirandaの明確な非対称分布を指標として、神経幹細胞の分裂の非対性に異常を来す突然変異の検索を行った。まず、ショウジョウバエのゲノムのおよそ70%をカバーする約300系統の染色体欠失のセット抗Miranda抗体によって染色し、その欠失に含まれる遺伝子が、Mirandaの局在に必要とされるかどうかを検討した。全欠失系統の1割程度の系統でmirandaの局在異常が検出された。その表現型はおおよそ次の3通りに分類される。(1)極性の方向異常、(2)不完全不等分配(3)完全に対称分配。この中で、symmetric cell division(scd)変異と名づけたこの突然変異では、Mirandaが等分配されるだけではなく、野生型ではMiranda同様不等分配されるNumbタンパクも等分配されてしまう。則ち、この遺伝子産物の機能は、運命決定因子の局在の上位に位置する。現在、この原因遺伝子を同定することに成功し、その機能の解析を詳細に進めた。
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