憎帽細胞の軸索は終脳外側の狭い領域を尾側に向かって伸長し、嗅索と呼ばれる軸索の束を形成する。我々の作製したモノクローナル抗体lot1が認識する細胞(lot細胞)は、将来この軸索が伸長することになる経路にわたって細胞の帯を作って配列し、嗅索の位置を決定すると考えられている。しかし、なぜこの細胞が予定嗅索領域に配列するかについては不明であった。そこで、様々な培養法を用いてlot細胞が終脳のどこで発生し、どのようにして嗅索領域に局在するようになるのかを解析した。Lot細胞が最終分裂を行っている胎生10.5日目マウス胚の終脳を様々な領域に分割して分散細胞培養し、lot細胞が終脳のどの領域から分化してくるのかを検討した。この時期の終脳は、遺伝子発現の様式の違いから、背側の新皮質と腹側の神経節隆起との2つの区画に分けることができる。Lot細胞はそのうち新皮質の細胞を培養したときのみ分化し、神経節隆起を培養しても分化してこなかった。また終脳新皮質の中では、どこの部位からもまんべんなく分化してきた。実際の生体内でlot細胞が新皮質全体で発生してくるとすれば、これらの細胞はかなりの距離にわたって終脳半球を腹側方向に移動しなければならない。しかしこれまでに腹側方向に移動する細胞の報告はない。本当にこのような細胞移動様式が存在するのかを確かめるために、マウス全胚培養法による細胞移動の解析を行った。その結果、実際に終脳新皮質全体で生まれた細胞が腹側方向に移動し、予定嗅索領域に局在する事が確かめられた。以上の結果を総合すると、生体内でlot細胞は終脳新皮質全体で発生し予定嗅索領域まで移動するという興味深い発生過程をたどることが示唆された。
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