本研究は、分裂酵母モデル系を用いて、HSP、転写因子、MAPキナーゼあるいはカルシニューリンなどが複雑に関与するストレス応答機構を、主に分子遺伝学的手法により解明することを目的をしている。平成11年度は、以下のような成果を得た。 1.ストレスにより活性化される新規MAPキナーゼ系について 我々が発見した分裂酵母の第3のMAPキナーゼであるPmk1は、細胞を高浸透圧あるいは高温度下におくとそのチロシン燐酸化が増加する。これらのストレスから燐酸化にいたる経路は不明であるが、我々は既に、遺伝学的手法により、Pmk1を脱リン酸化するフォスファターゼを同定し、報告している。今年度は、Pmk1を燐酸化するキナーゼPek1を介する制御機構を明らかにした。Pek1は上流のキナーゼMKh1により燐酸化されるとPmk1を活性化するが、燐酸化されていない場合は、Pmk1を抑制することが遺伝学的にも、生化学的にも明らかとなった。このようなPek1の性質は、本MAPキナーゼ系にall-or-none的な性質を付与すると考えられ、燐酸化によってコントロールされる分子スイッチとしての役割を果たしていると考えられた。 2.紫外線感受性など多様なストレス感受性を示す変異体の単離と遺伝子の同定 紫外線感受性と温度感受性を同時に示す事を目標として一群の変異体(uts変異体)を単離、解析した。Uts2は、上記感受性以外にもカルシウム感受性、過酸化水素、カドミウム、亜砒酸ナトリウム、カフェインなどの様々なストレスに対して感受性を示した。温度感受性を目標として遺伝子を単離し、配列を決定した。Uts2は、WDリピートをもつ新規蛋白質をコードしていた。現在は、この遺伝子の機能を明らかにしようとしている。
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