研究課題
誘導は発生過程において細胞運命決定の主要な機構の一つであり、多くの場合、細胞種多様性の生成に用いられている。これに対し、神経系発生過程では、神経細胞やその前駆細胞が、周りの細胞を自分と「同じ」運命へと誘導することがある。この現象は、homeogenetic inductionnと呼ばれ、ショウジョウバエでは複眼のニューロン分化と胚伸展受容器前駆細胞の運命決定の際に起こる。誘導因子はEGF様分子Spitzであり、ras/MAPKシグナル伝達経路を介してets型転写因子PointedP2を活性化し、神経分化を引き起こす。homeogenetic inductionnの系で誘導が際限なく起こるのを防ぐためには誘導現象が負に制御されていなければならない。我々は複眼と伸展受容器の系で、3つの誘導制御システムが同時に働いていることを見いだした。2つは、誘導シグナルに応じて細胞非自立的抑制因子あるいは細胞自立的抑制因子を生産することによって誘導に対する反応を制御する機構である。非自立的抑制因子としてはEGFアンタゴニストArgosが知られていたが、我々は、新規蛋白Sproutyが細胞自立的に働くことにより誘導に対する反応性を押さえていることを示した。さらに、第3の抑制機構として、誘導能そのものが、誘導シグナルによって活性化されるPointedP2によって抑制されており、誘導によって生じた細胞は新たに誘導源にはならないことを見いだした。これら3種の抑制機構はどれも必要ではあるが十分ではない。従って、一定の誘導結果を得るためにはこれら3種の抑制機構の間に相互作用があるはずである。実際、ArgosとSproutyは相乗効果を示すことを見いだした。現在、3種の抑制機構の総合作用について遺伝学的及び細胞的手法を用いて解析を行っている。
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