X不活化は哺乳類でみられる現象で、X染色体が複数あるとき1本以外は不活化され染色体上の遺伝子の発現がなくなることをいう。この現象はX染色体上にあるXistという遺伝子によって担われていると考えられている。Xist遺伝子は不活化されているX染色体からのみ発現しており、活性のあるX染色体からは発現がみられない。またXist mRNAは蛋白質をコードせず、機能的RNAとして働く。Xist mRNAは不活かされたX染色体に付着していることから転写されたのち自身の染色体に働き、染色体の不活化をおこなうと考えられている。 X不活化は未分化な細胞ではみられず分化すると起こることが知られている。これと一致して未分化な細胞ではXist mRNA量が少なく、分化すると増えることが知られていた。今回この過程を詳細に調べたところ、実は未分化な細胞では転写量は分化した細胞と変わらないが、mRNAの安定性が低いことがわかった。さらにこの不安定な転写産物は今までわかっていなかった上流にあるP0プロモーターからの転写産物によるものであることもわかった。そこでP0プロモーターを持たず分化した細胞でのみ働いているP2プロモーターしか持たないXist遺伝子をES細胞に導入したところ、未分化な状態でも転写産物は安定であることがわかった。つまり未分化な状態ではP0プロモーターが働き、上流の付加された配列を持った不安定な転写産物ができるが、安定な転写産物をつくるP2プロモーターの働きはP0が働くため押さえられていると考えられる。しかし分化が始まりP0プロモーターが働かなくなるとP2プロモーターが働くようになり、安定な転写産物ができるわけである。以上のようにXist mRNAの安定性の変化がX不活化を制御しているわけだが、これはプロモーターのスイッチングによる転写産物の違いによることがわかった。
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