本研究は、極微量にしか得られないRNAの高次構造変化を追跡するために、RNAの特定部位に蛍光プローブや光化学反応性官能基等の「分子レポーター」を導入する方法を開発することを目指している。今年度得られた成果は以下の通りである。 1.分子整形術による「分子レポーター」導入のモデルRNAとして酵母tRNA^<Tyr>を取り上げ、その分子内部にフルオレセイン標識ヌクレオチドを組み込んだtRNAを作製した。 2.蛍光標識されたtRNA^<Tyr>と酵母チロシルtRNA合成酵素との相互作用を蛍光偏光解消法を用いて定量的に(Kd値として)測定できることを確認した。 3.上記1.および2.を応用し、各種tRNA^<Tyr>変異体(分子整形術や転写-RNaseP法で調製した、分子内各種に変異を持つtRNA^<Tyr>)と酵母チロシルtRNA合成酵素間の相互作用の定量化(IC50値として)に成功し、いくつかの興味深い知見を得た。例えば修飾塩基を全く持たないtRNA^<Tyr>のIC50値が天然型tRNA^<Tyr>と比べると1桁近く悪いという結果が得られたが、これはチロシン受容活性で見た傾向と呼応している。この場合、アミノ酸受容活性の低下は主として酵素への結合力の低下によるものと判断できる。逆に、チロシン受容活性は大きく低下しているものの蛍光偏光解消法で見たIC50値はほとんど変化しないようなtRNA^<Tyr>変異体も得られている。この場合は酵素との結合は天然型tRNAとほぼ同等でありながらアミノ酸受容活性にはつながらないような変異を持っていると考えられる。 4.同様にいくつかの酵母チロシルtRNA合成酵素変異体と酵母tRNA^<Tyr>との相互作用の測定にも成功した。
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