研究概要 |
真核細胞およびそのウイルスのmRNAの5'末端にほぼ例外なく存在するキャップ構造は,転写の極めて初期に形成され,その後のmRNA代謝や翻訳において重要な役割を演じている.我々は種々の生物並びにウイルスのmRNAキャッピング機構について,酵素化学的並びに分子遺伝学的解析を行っている. 1.細胞のキヤッピングシステム:Xenopus laevisよりmRNAキャッピング酵素遺伝子(xCAP1a, xCAP1b)ならびにmRNA(グアニン-7-)メチル基転移酵素遺伝子(xCMT1)を単離する事に成功し,その構造と酵素活性について検討した.xCAP1aタンパク質は,ヒトをはじめとするキャッピング酵素と高度に類似したアミノ酸配列を持ち,N末端側にmRNA5'-トリホスファターゼドメイン,C末端側にグアニル酸転移酵素ドメインを有するbifunctional enzymeであった.ヒトmRNA(グアニン-7-)メチル基転移酵素遺伝子(hCMT1a)に種々の変異を導入し,触媒活性に必要な領域ならびにキャッピング酵素(hCAP1a)との相互作用に必要な領域をhCMT1a分子上にマップした.また,酵母キャッピング酵素βサブユニット遺伝子(CET1)の温度感受性変異体(ts変異体)を分離した.このうちの一部は,RNA5'-トリホスファターゼ活性に必要な部位にアミノ酸変異が入っておりin vitroにおいて酵素活性はts性を示した.また一部は,in vitroでの酵素活性には影響ないが,αサブユニットとの相互作用部位に変異が導入されており,α-βサブユニット相互作用が酵母の生育にとって重要であることが示された.RNAポリメラーゼII(polII)転写開始複合体を活性状態で分離し,その中にキャッピング酵素およびmRNA(グアニン-7-)メチル基転移酵素が特異的に組み込まれていることを,それぞれの特異抗体を用いて明らかにした.また,キャッピング酵素はCTDがリン酸化されたpolII(polIIo)に特異的に結合することを示した. 2.ウイルスの転写-キャッピングシステム:センダイウイルスのin vitro mRNA合成は,ほぼ完全に宿主因子の存在に依存する.宿主因子を高度に精製し,それが少なくとも3種類の因子からなることを明らかにした.このうちの一つは細胞骨格系のチューブリンであり,もう一つは解糖系酵素のホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)であることを見出した.チューブリンは転写開始複合体形成に必要であるが,PGKはRNA鎖伸長反応において機能することを明らかにした.インフルエンザウイルスmRNAキャップ構造は宿主mRNA断片を利用することによって付加される.この反応に関与するウイルスポリメラーゼサブユニットPB2について,RNAとのクロスリンク法によってキャップ構造認識部位を解析し,それがPB2分子上の異なる2カ所にマップされることを明らかにした.
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