昨年度までに、新しく開発した1分子捕捉操作技術を用い、1個のATP加水分解中に約5.3nmのステップが複数回(最大5回)起こって、アクチン・フィラメント上をミオシン頭部1分子が進むのが直接計測することに成功した。この5.3nmステップが、ミオシン頭部の構造変化に基づくものか、アクチン・モノマーの間隔に基づくものかを決定する実験を行った。ミオシン頭部(S1)を、BDTC(ビオチン化ペプチド)と制御軽鎖(RLC)とのフュージョンペプチドを用いてアビジン経由でガラス表面に結合させると、双頭のミオシンと同程度に速く滑り運動することを見つけている。この系において、BDTCとRLCとの間にグリシン・リッチであるフレキシブルなペプチドを導入し、滑りの運動の変化を計測した。最大12nmまで伸びうる柔らかいペプチドを導入しても、アクチンフィラメントは、導入する前の8割の速さで滑ることがわかった。柔らかい部分の挿入が動きを阻害しないことを論証するため、以下の3つの実験を行った。フレキシブル・ペプチドを導入しても、ATPase活性には変化がほとんど見られなかった。電子顕微鏡により、導入したフレキシブル・ペプチドが、期待される柔らかさを実際に示すことを確認した。滑り運動中のアクチン位置の画像解析から、滑り運行中もフレキシブル・ペプチドの柔らかさが保持され、アクチンフィラメントが揺らぎながら滑っていることを確かめた。 これらの知見は、従来言われてきた構造変化説では説明できず、生体分子モニターの分子機構は、揺らぎを使った確率的なルースカップリング・メカニズムであることを示している。
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