研究概要 |
DIFは細胞性粘菌において柄細胞への分化を誘導する因子である。近年、DIFが哺乳動物の腫瘍細胞に対して細胞増殖抑制、分化誘導、アポトーシス誘導などの作用を持つことが報告されている。我々はラット大脳皮質の初代培養神経細胞に対するDIFの効果について調べた。 1.神経細胞に対しても分化促進効果があるかを調べるために、各種の分化マーカの発現を、RT-PCRで調べたが分化促進の効果は認められなかった。2.成熟した神経細胞にDIFを与えると樹状突起の数珠状化や細胞体の膨張などの細胞変性が見られた。培養初期の未成熟な細胞に対しては高濃度(20μM)、数日間でも無効だったが、培養3週目の神経細胞では低濃度(無血清培地では5μM,血清培地では10μM)、2時間で形態異常が見られた。3.DIFによる変性が過剰なカルシウム流入によるものである可能性を考え、細胞内カルシウム濃度変化を調べた。無血清培地において、5μMのDIFを与えても細胞内カルシウムは自発的な濃度上昇のレベル以上には上がらなかった。4.DIFによるimmediate early geneの発現誘導を調べた。培養3週目の神経細胞に5μMのDIFを2時間作用させるとc-fosの発現が上昇したが、zif/268やarcの発現に影響はなかった。10μM picrotoxinではすべての発現が上昇した。5.DIFによる神経細胞からのNO放出を調べた。5μMのDIFによってNO放出の上昇を認めた。 以上のことからDIFは神経細胞に過興奮をおこさせることなく細胞変性を誘発すること、それがNOを介している可能性が示唆された。
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