動脈硬化巣には増殖型に形質転換した血管平滑筋細胞が遊走分裂していることが知られている。この細胞の形質転換の変化過程においては発現遺伝子の変換、なかでもアクチンを含む主要な収縮蛋白質のアイソフォーム変換がおきている。この遺伝子発現変化を解析するため、まず正常な血管平滑筋組織における血管平滑筋特異的アクチン遺伝子の発現調節系を明らかにしなければならない。 ヒトの血管平滑筋特異的アクチン遺伝子のどの部分が組織特異的な発現に必要であるかを見出すため、転写制御領域に各種の変異を導入したものにリポーター遺伝子を結合してトランスジェニックマウスを作成し、成体及び胎仔における各臓器での発現状態を調べた。 血管平滑筋アクチン遺伝子の5'上流から、第1エクソン、第1イントロン及び第2エクソンの一部までを持つトランスジェニックマウスにおいては、平滑筋特異的遺伝子発現が見られた。しかし、第1イントロンの異種間で保存された約150塩基を欠失すると発現できなくなった。この150塩基には10bpのCArG配列とTAATをモチーフにするA/TBF転写調節系などが同定され、前者にはSRFが後者にはHox系の転写因子が結合することがin vitroで示された。これら2種類のモチーフのそれぞれに点変異を導入した遺伝子は大動脈での発現が見られなくなった。 血管平滑筋アクチン遺伝子のin vivo発現には第一イントロン内の種間で保存されたCArG配列とA/TBF転写調節系が血管平滑筋特異的発現に必須であることが明らかになった。この領域は組織特異的in vivo遺伝子発現ベクターとして利用する事が可能である。
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