【目的】我々は、ラットに一酸化窒素(NO)合成阻害薬(Nω-nitro-L-arginine methyl ester、L-NAME)を投与すると3日後に心血管組織の炎症性変化[単球浸潤、monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)産生増加など]が生じ、4週以降に冠血管の病的リモデリング(冠動脈中膜肥厚、線維化)が生じることを報告した。MCP-1は単球浸潤を特異的に制御するケモカインである。最近、MCP-1受容体CCR2欠損マウスとapolipoprotein E(apo E)欠損マウスを交配したマウスモデルで、動脈硬化形成におけるMCP-1/CCR2シグナル経路の重要性が示された。このことは、抗MCP-1療法が新たな遺伝子治療になりうることを示唆する。本研究の目的は、MCP-1受容体のdominant-negative inhibitorとして作用する変異型MCP-1遺伝子導入法が血管リモデリング/動脈硬化に対する新しい遺伝子治療戦略と成りうるかどうかを明らかにすることである。【方法・結果】本研究ではヒトMCP-1遺伝子のN末端の2-8番目のアミノ酸を欠損した変異型遺伝子(7ND)を使用した。7ND蛋白はin vitroでMCP-1受容体のdominant negative inhibitorとして作用した。7ND遺伝子を正常ラットの骨格筋へHVJ-liposome法を用いて導入することにより、recombinantヒトMCP-1皮下中によって誘導される皮膚への単球浸潤は完全に抑制された。L-NAME投与ラット骨格筋に7ND遺伝子あるいは生食を投与したところ、7ND遺伝子によって早期の炎症性変化ならびに後期の血管リモデリングの成立が抑制された。 【総括】これらの結果から、MCP-1受容体シグナル経路がNO産生抑制による血管リモデリングの形成に必要であること、この新しい遺伝子治療戦略が動脈硬化の新規治療手段になりうること、が示唆された。
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