Gas6(growth arrest-specific gene6)は、血清飢餓時の線維芽細胞に特異的に発現誘導される遺伝子産物として同定され、血管平滑筋細胞の増殖や遊走を促進する作用を持つ。本研究では、血管平滑筋細胞に対するGas6の作用機構を解明することを目的に、Gas6の機能ドメインの解析、Gas6の拮抗阻害剤の開発を行い、以下の結果を得た。 1)Gas6の受容体への結合及び細胞増殖促進機能は、C末端部のSHBGドメインのみで必要十分である。一方、N末端部のGlaドメインは細胞膜リン脂質との結合に関与し、リン脂質の中でもホスファチジルセリンに特異的に結合することが明らかとなった。つまり、Gas6は二価性の細胞接着因子として機能する可能性が考えられる。 2)ホスファチジルセリンは老化した細胞やアポトーシス細胞では膜表面に配向することが知られているので、マクロファージによるアポトーシス細胞の貧食に対するGas6の作用を調べ、これを亢進する活性があることを見い出した。 3)可溶型受容体Axl-Fc(受容体Axlの細胞外領域とIgGのFc領域の融合蛋白質)が、Gas6に対する有効な阻害剤として機能することを見い出した。Axl-FcはGas6による受容体の活性化や血管平滑筋細胞の増殖促進を顕著に阻害した。 Gas6のin vivoでの役割を解明するためには、今後、Axl-Fcを大量に精製する必要がある。また、最近、Gas6が血管平滑筋細胞のスカベンジャー受容体SRAの発現を促進することが報告され、Gas6がオートクリン及びパラクリン機構によって、平滑筋細胞によるLDLの取込みと泡沫化に関与する可能性がでてきた。今後はこのような観点からも、Gas6の動脈硬化の進展における役割を明らかにしていくことが重要である。
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