我々はVHLがPKCを始めとする様々なタンパク質リン酸化酵素と結合することに着目し、これが手がかりとしてVHLの機能を明らかにすることを目的とした研究を行っている。今年度の研究により、我々は、1)PKC群の中でatypical PKC(aPKC)に属する分子種がそのN末端側にある活性調節領域を介してVHLと直接結合すること、2)その結合にはVHLのN末端側73-122番目のアミノ酸を含む部分が必要かつ十分であること、3)PKCの偽基質配列に変異を導入し活性型とすることによりVHLとの結合がより強くなること、を明らかにした。また、少なくとも試験管内に於いてVHLはaPKCのよい基質とはならず、逆にaPKCの活性に大きく影響するものでもなかった。この知見はPKCとVHLの複合体は、この両者以外のタンパク質を含めた形で初めて生理的意味を持つことを示唆するもので、昨年来報告されているVHLがユビキチンリガーゼE3酵素として機能するという仮説はまさにこれを支持するものである。即ちVHLは活性型となったPKCを認識し、分解を促すことによりシグナル伝達のturn-offに関与する可能性があり、これがVHLのがん抑制遺伝子としての機能にも結びつくものと考えられる。VHLがE3酵素の他の構成因子であるelongin B/Cと結合するのはC末端側のαドメインであるのに対してPKCと結合するのはターゲットタンパク質の結合部位と予想されるN末端側のβドメインであることもこれをさらに支持している。現在aPKCのユビキチン化がVHLにより促進される可能性について検討すると共に、Von Hippel-Lindau病に於いて見られる点突然変異体を利用することにより、VHLと活性化したPKCとの結合の構造基盤について明らかにする準備を進めている。
|