化学療法の進歩によって、比較的治療歴の少ないエイズ患者の血清中のウイルスコピー数を、ときに検出感度以下に押さえることも可能になった。しかし長期にわたる治療歴をもつ患者にとって、HIV-1の薬剤耐性化は、今後とも治療上最重要課題のひとつである。本年度は、HIV-1薬剤耐性獲得の機序を明らかにする目的で薬剤耐性関連変異を複数もつ混合ウイルスプールを作製した。HIV-1の薬剤耐性化は、薬剤の標的分子である逆転写酵素、プロテアーゼにアミノ酸置換が蓄積し、薬剤による阻害効果が低下することによっておこる。この現象を解析するために、in vitroで耐性ウイルスの誘導がおこなわれてきたが、ここで選択されてくる変異は、かならずしも臨床治療の結果得られた変異と一致しない。その理由として、(1)in vitroでは、ウイルスプールサイズが極端に小さい、(2)薬剤による淘汰圧が強くreplicationのよいもののみを絞り込んでしまいがちである、(3)比較的均質のウイルスプールから耐性ウイルス選択をはじめるため選択の幅が制限される、などがあげられる。こうしたin vitroにおけるシステムを改善するために、既知の薬剤によってすでに報告のある複数の耐性関連変異の組み合わせをもつ混合ウイルスプールの作製を試みている。その結果、少なくとも10^4個の異なる耐性変異の組み合わせをもつ混合ウイルスプールを作製可能であることがわかった。この混同ウイルスを、薬剤耐性ウイルスの選択にもちいることによって、(1)新規の薬剤の既存の耐性ウイルスへの効果を効率良く評価できる、(2)短期間で選択可能のため、増殖能の低い耐性ウイルスも解析可能である、(3)back groundが均一でプロテアーゼにのみに多様な変異の組み合わせをもつウイルスプールを扱える、といった改善点が今後期待できる。
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