転写因子WT1はその造血系の分化調節における役割が明らかになりつつある。一方、残存白血病マーカーとして臨床応用されながらも、白血病に分子レベルでどのように関わるかは不明である。そこで、WT1の機能異常と白血病との関係を明らかにする目的で、4つの相異なる造血器腫瘍グループでWT1の変異解析を行った。その結果WT1の変異は急性骨髄性白血病に限られるが、成人・小児、病型を問わずその15%に見られること、及び予後不良と明らかな相関があることを発見した。 このようにWT1の機能異常が急性骨髄性白血病の病態に深く関わっている可能性が示唆されたため、その標的遺伝子の解析をES細胞におけるノックアウト実験で行った。この細胞においてはWT1のDNA結合能に重要であるZnフィンガードメインにneo耐性遺伝子を導入した。これらをDNAマクロアレイによるスクリーニングにかけたところ、WT1の変異の有無によって発現の変化が生じる約40個のクローンが同定された。しかし、その発現の差はわずかであり、しかもこれまでWT1の標的遺伝子として同定されている約20種類の遺伝子の発現の差は全く検出できなかった。この事実はWT1が単に転写調節によって発生分化を調整しているのではなく、別の機能がより重要である可能性を示唆する。 一方、WT1の核内局在を免疫組織染色で検討すると、タンパクレベルでスプライス因子と結合していることも明らかとなり、WT1の造血系における役割は複数の経路によって調節されているものと考えられた。
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