植物の光応答、特に光形態形成と呼ばれる反応においては、植物の各器官/組織は光に対してそれぞれ異なる応答を示す。この過程においては、様々な遺伝子の発現が時間的、空間的に調整されていると考えられるが、その制御機構については不明な点が多い。そこで本研究では、シロイヌナズナのプロモーター・トラップ系統を用いて、光応答の器官/組織特異性に関する研究を進めた。 これまでに我々は、INRA(フランス)の提供するプロモーター・トラップ系統のなかから、暗処理により胚軸下部でGUS遺伝子の発現が誘発されるN35系統を再単離し、胚軸下部でのGUS発現が子葉のフィトクロムにより抑制されることを示した。また、この応答には植物ホルモンであるオーキシンが関与することが示唆された。そこで本年度は、N35系統におけるレポーター遺伝子の挿入部位を決定し、タグされた遺伝子の野生株での発現解析を行った。その結果、オーキシンにより発現が誘導されることが知られるGH3遺伝子の発現が、子葉のフィトクロムによる制御を受けていることが示唆された。 MOGEN社が提供するプロモーター・トラップ系統から再単離したM813系統では、青色、赤色、近赤外光の全ての波長の光により胚軸でGUSの発現が誘導される。興味深いことに、M813系統におけるGUSの発現は暗所でも培地へのショ糖の添加で著しく増加した。そこで本年度は、光によるGUS発現の誘導と光合成の関係を光合成阻害剤を用いて調べた。さらに、この系統でタグされた遺伝子を単離し、野生株での発現解析を行った。その結果、新規の受容体型のキナーゼ遺伝子の発現がフィトクロムや糖による制御を受けていることが明らかになった。
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