研究概要 |
(1)インド思想における哲学と宗教の相互補完的関係を文献実証的に解明する一つの切り口として,10世紀前後のバラモン哲学文献の解読を軸に,ヴェーダ聖典観の展開を辿り,あわせて世界諸文明における古典概念との対比のもとに,インドの古典観の特質の一端を明らかにするため,ジャヤンタの主著『ニヤーヤ・マンジャリー』の該当部分,及びヴァーチャスパティの『ニヤーヤヴァールッティカ・タートパリヤティーカー』を中心とする諸作品における関連箇所の解読作業が進行し,両者が展開する聖典観の個別分析・比較検討のための基盤が整いつつある段階である。 (2)既発表の研究成果としては,ジャヤンタの著作をめぐる諸問題,およびジャヤンタとヴァーチャスパティの年代論を扱った研究代表者による論文3点と,サンスクリット文献の電子テキスト化にともなう諸問題を分析した研究分担者による論文1点がある。 (3)文献解読の精度を高めるため関連文献の電子テキスト化も進行しており,その成果の一部として,インド哲学史上最重要な作品の一つであるクマーリラ作『シュローカ・ヴァールッティカ』の総索引を,研究分担者は完成し,近く刊行の運びとなる予定。 (4)古典学の各分野との分野横断的なシンポジウム,調整班の研究会等を通して,「古典としてヴェーダ」という概念設定の下で,ヒンドゥーの諸哲学者が展開するヴェーダ聖典観を,インド文明における古典観の一事例として解明する視点が得られた。また本文批評の方法論に関しても,西洋古典学ならびに聖書解釈学で確立した諸原則との対応にもっと注目すべきであるとの認識に達した。
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