本研究の鍵概念である法論理的思考について、ボストンで聖書、ユダヤ教の研究者との意見交換を通して、これをある一つの文化におけるレトリックとして考察するという視点を得た。すなわち、欧米のレトリックの基礎がギリシアの哲学、論理学の系譜であると考えた場合、ユダヤ教では、明らかに西欧のキリスト教文化の学問体系とは異なる説得の論理(レトリック)を発展させてきたのであり、それがタルムードで展開された議論であったと考えられるのである。 本研究では、こうしたタルムードの論理を、古典学の再構築の一貫として、いわば人類の普遍的な遺産として位置付け、他の地域の古典文化のレトリックとの比較研究を行うためのテーマをいくつか選んでそれに沿って研究を行った。 1.ユダヤ教の口伝律法典タルムードの基礎的部分であるミシュナの中のアヴォート篇はユダヤ人の人生観、世界観、学問観を知る上での基本文献であるから、A.シュタインザルツ氏の注釈ともども訳出して、目下、登場する70人のラビの略歴を調べている。研究の一部は、古典学の再構築のシンポジウムで発表した。 2.サンヘドリン篇から、裁判の審理に関するミシュナ規定と、それに関する議論の部分であるグマラについて、論理の構造を吟味した。 3.ユダヤ教の世界観の一端を提示する箇所をミシュナのハギガー篇より取り出して、その内容的な特徴を明らかにするとともに、ゲマラでの議論を基にレトリックを分析した。この内容については、来年度の古典学の世界観グループで発表する予定である。
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