研究課題/領域番号 |
11164212
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市川 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (20223084)
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研究分担者 |
中村 信博 同志社女子大学, 現代社会学部, 教授 (00189052)
鶴岡 賀雄 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (60180056)
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キーワード | 神の臨在 / カヴォード / シュヒナー / ルイス・デ・レオン / 『キリストの御名』 / 日本語訳聖書 / 聖書中心主義 |
研究概要 |
1年目は、比較研究の基礎をなす各研究者の個別研究を深化させることを目指した。 市川は、ユダヤ教の賢者が神の臨在の表現をいかに解釈したかを考察した。エルサレム第二神殿崩壊時、聖書を熟知し、第一神殿の崩壊とその後の展開を記憶する賢者ハハーミームの集団は、神の臨在の衝撃的印象たる聖書の表現「カヴォード」を、神の栄光・尊厳・名誉という抽象的意味に変化させて用い、他方で、神はその御栄えが実現される場に臨在するという意味の新たな表現「シェヒナー」を用いたが、これは、当時の多様な宗教的見解を標榜する諸集団、とりわけ黙示文学の神秘的営為に反対する明確な意思表示であった。 鶴岡は、十六世紀スペインの神秘思想家、神学者、詩人であるルイス・デ・レオンの宗教思想における聖書解釈法についての研究を進展させた。とくに、彼の主著『キリストの御名(De los nombres de Cristo)』における、聖書原典(とくにヘブライ語)の言語理解が、中世後期以来の唯名論的言語哲学と、近代初期の人文主義的原語主義と、ルネサンス的プラトン主義の現世超越的・美的宇宙観と、当時知られるようになったユダヤ教のカバラ的・魔術的言語思想とを同時に共存させ交錯させた独自なものであることを明らかにした。また、マドリードの国立図書館等で、新たな資料を入手した。 中村は、旧約聖書を中心に聖書邦語訳史を、近代プロテスタンティズムの文脈のなかで再定義する研究をすすめた。本来、教派宣教の目的によって開始された諸邦語訳聖書は、原典テクストの修辞技法などを意識して翻訳されたいわゆる明治「文語訳」以来、文学作品としての地位を確立することになった。聖書中心主義をかかげるプロテスタント主義において、翻訳聖書は所期の目的を越え、教派教会性に固執しない文化としてのキリスト教を日本に現出させる遠因となったと考えられる。
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