本研究の目的は、17〜19世紀東アジアの科学関連資料・科学古典を収集整理し、それを通して当時の科学と科学思想を、東アジア文明総体の中に位置付けるところにあるが、今年は初年度でもあるので、研究環境の整備に最大の努力を傾注した。その重点は二つある。第一に、研究機器の準備。コンピュータ(MACデスクトップー台、PCノートブック二台)を購入し、中国語や朝鮮語のOSをインストールしたシステムを構築した。コンピュータを複数準備したのは、東アジアの漢字データベースはOSごとにそれぞれ使用する文字コードが異なっているからである。第二に、研究資料の入手。資料収集の中心を占めたのは、朝鮮本の科学関連資料・科学古典である。北京大学図書館蔵『黙思集算法』(マイクロフィルム)、『朝鮮王朝実録』『国訳叢書』(古典書の影印・韓訳本)など文献資料を収集しただけでなく、韓国OS用のCD-ROM『三国史記』『司馬榜目』なども購入した。朝鮮関係史料が特に多いのは、われわれの研究目的の一つが世界的に見て研究が手薄な朝鮮科学史の正当な評価にあるからである。 本年度の研究で得られた新たな知見はあまり多くない。研究環境の整備に時間がとられたからである。研究代表者は科学史の内的アプローチを採用して、17〜19世紀東アジアの数学交流を分析。豊臣秀吉の朝鮮侵略時の略奪本を基礎として和算が成立したことを明らかにした。研究分担者は科学史の外的アプローチを採用して、百年前の二人の中国人思想家康有為と厳復の訳語を現在の先入観を排除して当時の視点から分析した。また従来知られていなかったJ.S.ミル『自由論』の中国語訳本(馬君武訳『自由原理』)についても検討をくわえた。
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