伝承知と理性知との関係を探求するため、鎌田はイスラームの神秘哲学者モッラー・サドラー(1640年没)の思想を主として扱った。本年度はその基礎作業としてクルアーンをどのように読み解いているかを中心に、モッラー・サドラーの著作の読解を進めた。その成果の一部は1999年5月にイランで開催されたモッラー・サドラー国際学会で発表した。彼の代表作のひとつ、『神的明証』の翻訳注解の仕事をするにあたって、アラビア語の該当テキストをマッキントッシュのテキスト・ファイルとして作成した。まだ完全なものではないが、これは、翻訳するテキストの用例を効率的に調べ、より正確なテキスト理解を実現するため、テキスト全体の検索を可能にする電子情報化を試みたものである。モッラー・サドラーの他の著作は、イランでCD-Rom化されたものがあり、本年度購入できたので、それらをともに利用することで、今後進める翻訳注解の作業の基礎的な手段が整備された。 濱田は、オスマン帝国における政治思想の展開を考察すべく、トゥルスン・ベグの『征服王伝』の解読を継続する一方で、これよりおよそ一世紀後のゲリボルル・ムスタファ・アーリーの『歴史宝蔵』についての研究を開始し、現在この浩瀚な歴史書の既刊部分の講読を行う外、未刊である著者の同時代史の部分の写本のマイクロフィルムの収集を図っている。トルコ共和国のみならず、ライデン、パリ、ウイーン、ベルリンの写本に関する情報を得たので、新年度には現地調査を含めて史料の収集を実現する予定である。今年度中に刊行される研究としては、中国イスラームのスーフィズムを扱った「『帰真総義』初探」(神戸大学文学部五十周年記念論集)がある。
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