研究概要 |
濱田は、伝承知に関する研究の一環として、中央アジアのチャガタイ語聖者伝に引用されるコーランとハディースを収集した結果、チャガタイ語訳のタフスィールの存在を推定するに至った。またこれらの引用がいかなるコンテクストに現れるかをいちいち検討することにより、聖者伝におけるコーランとハディースの理解のされ方を解明することが可能になることを明らかにした。この研究と関連のある3篇の仏文の論文をTurcica, Jounal of the History of Sufis, Annales各誌に編集部の求めに応じて投稿し、掲載の決定を得た。さらに、漢文のスーフィー文献である『帰真総義』についても、コーランとハディースの翻訳の原文同定の作業を継続している。 野元は、本年度は10世紀のイスマーイール・シーア派の思想家アブー・ハーティム・アッ=ラーズィーをとりあげ、野元のPh.D.論文(McGill University, Montreal,1999を発展させる形で、1.イスマーイール派への新プラトン主義哲学の影響、2.10世紀のイスマーイール派運動の状況、3.その『訂正の書』本文テクストの正確な読みの確立、の三点から研究を進めた。以上の1については新プラトン主義協会大会(9月24日於神戸市外国語大学)おける研究発表で、ラーズィーはイスマーイール派の救済史観と新プラトン主義的宇宙論を結合させたという仮説を提示した。2と3については、以下の二つの業績において、当時のイスマーイール派の政治活動における多様性を指摘し、また『訂正の書』校訂版(Tehran,1998)とTubingen写本、Hamdani写本を比較した。
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