研究概要 |
本調整班研究は,(1)古典の伝承の実態を把握することにより,古典を理想的な形で次代に伝え,(2)各文明における古典受容のあり方を比較研究することにより,各文明の特質を明らかにすると共に,(3)従来の各分野内で完結していた研究法に反省を加え,異分野横断・文化横断の新しい古典学を構築することを目的とする.しかし,調整班参加者がインド・中国仏教,西洋古典文学,西洋古代史,ローマ法,ビザンツ学,ジャワ文学,英文学と多領域にわたり,伝承というものの捉え方も異なるため,まず研究会で相互理解に努めた。「中国における仏教の受容」(丘山新),「古ジャワ文学における『マハーバーラタ』の伝承と受容」(安藤充),「十八世紀のサッフォーたち」(川津雅江)の報告を受け,各文明・各国ごとの伝承観の違いを議論した.また中務は,『イソップ寓話集』の中で多数見られる競い合いの寓話(「北風と太陽」等)が古典期からヘレニズム期,古代末期にかけて文学作品にどのような影響を与えたかを考察した.西村はユスティニアヌス帝の「学説彙編纂」がいかにしてヨーロッパ統一法の基礎になり得たかを考察すると共に,将来東アジアの共通の法制定のための共通基盤たりえるかどうかの展望を試みた.丘山は「阿含経典」等の翻訳に従事すると共に,インドの仏典が漢字文化圏に受容される際に生じる様々な問題点について考察した.大月はビザンツ諸皇帝の文芸振興政策により,いかにして古典が創造され,国家統治において効力を発揮したかを考察すると共に,「キリスト教世界の統括者」を自認するビザンツ帝国が,ギリシア・ローマの古典の仲介者として果たした役割について検討した.
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