ペルシア語古典文学の代表的な作品である「シャーナーメ」は、数多くの写本が世界各地に現存することでも知られている。本研究では、まず良質の写本のマイクロフィルムを収集し、それらを比較検討することによって、テキストが時代によっていかに変容したか、また、その変容にどのような意味があるのかを考察しようとした。それは、「シャーナーメ」と社会との関わりについて歴史的に研究するための予備作業としての意味を持つ。このため、研究協力者の山本久美子氏(ロンドン大学博士課程)をイギリス、ドイツに派遣し、現地の研究者との情報交換を進めるとともに、大英図書館が所蔵する写本のマイクロフィルムを15点購入した。主に15世紀から17世紀に製作されたこれらの写本は、単にテキストの読解や比較検討のためだけではなく、挿入された絵画を対象とする美術史的研究にも大いに活用される予定である。 山本氏はまた、ケンブリッジ大学のC.Melvilleが主催する「シャーナーメ・プロジェクト」と接触し、インターネットを使った画像公開の可能性やテキストそのものの共同研究の試みについて話し合った。5年計画で昨年から開始されたイギリスのプロジェクトは、主として「シャーナーメ」写本に挿入された絵画を収集し、それを公開しようとする試みである。しかし、我々の研究との間で視角や研究方法を共有する部分も多く、今後相互に密接な連絡をとりながら研究が進められる予定である。
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