昨年に引き続いて、本年度も、研究協力者の山本久美子をイギリス・フランスに派遣した。山本は、ケンブリッジ大学、大英図書館、フランス国立図書館などで「シャーナーメ」の良質な写本、及び、従来無価値とされてきた16世紀以後の写本を調査するとともに、関連する研究を行っている研究者と積極的に交流した。特に、イギリスのケンブリッジ大学では、Charles Melville博士の組織した"University of Cambridgc : Shahnama Project : Shahnama Workshop"に参加し、「『シャーナーメ』とシャーナーメ語り(The Shahnama and Naqqali)」と題する報告を行った。また、フランスでは、CNRSの「イラン研究」グループの研究会に参加するとともに、個別に多くのペルシア文学・歴史研究者と会い、情報を交換した。山本の研究によって、「シャーナーメ」のテキストが、千年近くに亘って伝承される過程でどのような変容を遂げ、それは歴史的にどのような意味を持つのかが明らかになりつつある。山本が指摘する「シャーナーメ語り」という職業がテキスト改変に果たした重要性は、「シャーナーメ」研究でこれまで等閑に付されていた部分である。また、将来した「シャーナーメ」の良質写本の整理を進め、一部を焼き付けて、一般の利用が可能な状態にした。 2000年11月には、来日されたCharles Melville博士と日本側研究者が実質的な討議の機会を持ち、今後の相互協力体制について議論した。ケンブリッジの「シャーナーメ」写本の画像データベース・プロジェクトと日本の写本テキストの研究は相互補完の関係にあり、今後より一層緊密に研究協力を行ってゆく予定である。
|