研究概要 |
本研究は、ヨーロッパの成立以来、思想の営みが古典との取り組みの中で行われてきたことを確認し、跡づけることを目的とするが、本年度は、ルターを中心とする16世紀、またハーマンを中心とする17-18世紀を川中子が、そして敬虔主義と自然神秘主義からドイツ観念論に至る18-19世紀を中井が分担した。 ハーマンに関して川中子は、この思想家を、18世紀に明確な形を取り始める新プロテスタンティズムの聖書解釈の動きに対して最初に反省を行い、自覚的に対峙した人物として、プロテスタンティズムの解釈学的伝統の上に位置づける作業から行った。その際に、ルターの再解釈者としてのハーマンの思想の独自性、その敬虔主義の聖書解釈との差違を検証していった。そこでは、古典古代、ことにその修辞の伝統との取り組みも視野におき、西欧の思想におけるヘブライ・キリスト教思想とギリシャ・ローマの古典の絡み合いをも浮き彫りにした。こうした成果を、「北方の博士・ハーマン著作選」において、提示しようとした。 一方、中井は、18世紀後半において聖書とギリシア思想という古典がいかに解釈され、それが新たな古典の生成にいかにつながっていくかを、ノヴァーリスやフリードリヒ・シュレーゲルやシェリングなどの初期ロマン主義に焦点をしぼって研究した。18世紀後半になされたいわゆる「汎神論論争」とその影響は、ドイツ観念論やゲーテ時代の文学にとってだけでなく、諸宗教・諸文明の対立が問題となっている現代にとっても重要であることを見定めた。2001年10月にはドイツ,ヴィーダーシュタットにおいて開催されたノヴァーリス協会の学術会議において、「ノヴァーリスにおける詩と詩学、自然神秘思想の記号論」という講演をおこなった。
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