10〜11世紀のビザンツ帝国で作成された文書について研究した。当該期は、多くのギリシア語文献が再生・創造された同帝国の文化的再生期である。本研究では、歴史記述や国家生活に関わる古典的公文書(勅法・財政文書)を中心素材として、個別の古典史料の作成事情、テキスト分析を行うなかで、同時期の文化活動の実態を考察した。本研究計画は、平成13〜14年度にわたり遂行されるが、平成13年度末段階における成果概況はおよそ以下の通りである。 (a)作品の成立・内容についての総覧 国家生活に関わる古典文書について、作者・著者像、制作年代、制作動機、写本状況についての要録を作成している。 (b)日本語訳の作成 いわゆる「マケドニア朝新法」(『バシリカ法典』(9世紀末レオン6世期に完成)以後に発布された皇帝勅令群)や皇帝発布の特権賦与状など、注目すべき作品について、写本伝承を顧慮しながら、日本語訳の準備を推進している。 (c)ラテン語史料との連関 ビザンツの古典作品は、自らの国家形象および「皇帝」を「世界」oikoumeneの中心と認識していた。ビザンツ帝国=皇帝は、「世界」に対して責任を負う存在と観念されていた、と読める。本研究は当初、中世ギリシア語古典のみを対象として想定していた。しかし、以上の事情から、それからのみでは当時の「古典世界」の全体像を十全に把握できないことが判明した。「中世キリスト教世界」に固有の世界像を定位する必要に想到し、平成13年度後半よりは、西欧ラテン語史料をも顧慮しながら作業を行っている。代表的ラテン語作品について、ビザンツ古典の影響(テキストの内容・様式等)を中心に比較考察している。
|