本年度は真下が、昨年度の学会発表をもとにムガル朝時代の文人アサド・ベグの回想録についての研究をまとめた。そこでは文献学的な写本研究の結果として校訂テキストの底本としてアーンドラプラデーシュ州東洋写本図書館所蔵本に拠るべきことを明らかにした。さらにこの回想録の史料価値に関する歴史学的研究の結果として、他の諸史料の内容との比較からこの回想録が他には見られない独自のかつ信頼しうる貴重な一次的情報を伝えていることを明らかにした(MASHITA2002)。また2002年12月の原典班の研究会議では写本研究の知見を踏まえ「イスラームにおける古典」というテーマで、イスラーム文明における古典テキストの伝達の意義と背景について簡単な報告を行なった。また昨年度までに収集してあった諸写本のマイクロフィルムのうち、なお数多く残っていた未整理のものに集中的に取り組んだ結果、その過半をデジタル的に焼付けて電算機上で処理することができるようになった。焼付けデータの一部については解読・テキストデータ入力を進め、研究に利用しているところである。 また間野は、大英図書館(英国・ロンドン)、フランス国立図書館(フランス・パリ)に出張し、以前より研究を継続している『バーブル・ナーマ』のチャガタイ・トルコ語の写本1点と二種類のペルシア語訳の写本それぞれ1点計3点を調査し、それぞれについてマイクロフィルム複写を将来した。フィルムはすべてすぐに焼き付け、現在解読作業を進行させているところである。【以上、636字】
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