「古代ギリシア像」を「再検討」するために、意識してギリシア的思想文脈を重視し、「ギリシアの中でギリシアを理解する」ことを、基本姿勢にした作業を進めている。特に当面の課題としては、プラトン・アリストテレスを中心としたギリシア的「ロゴス」概念の実質を見直すこと、初期ギリシア哲学のもつ意味を捉え直し、むしろその流れがギリシア思想の基調をなしていることを明らかにすることに努めている。研究遂行の初年度にあたる本年度においては、基礎資料の収集と整理に重点をおき、特に最近きわめて活発化している、プラトンの対話篇構造の意味するものの解明に関わる諸研究の批判的検討を最も中心的な作業とした。 当面の成果としては、以下のものがある。論文「対話と想起-プラトンの方法〔その2〕-」(平成12年3月『哲学研究』に公刊予定)は、プラトン哲学において一つの画期をなす「想起説」を主題的に取り上げ、それを従来とは異なった観点から見直そうと試みたものである。特に『メノン』『パイドン』の当該個所をたんねんに読みなおすことによって、それがいかに根本的にプラトン哲学全体を方向づけているかを明らかにするとともに、プラトンの思想の特質にも論点を及ぼす。その他、エンペドクレスの新発見断片を扱った論文「解体する自然のさ中なる生-エンペドクレスの新断片発見によせて-」(『現代思想』平成11年8月号)、伝存するギリシア哲学文献の紹介に則して、ギリシア哲学史を素描しなおした論文「西洋古代哲学案内」(京都大学学術出版会)『西洋古典叢書がわかる』平成11年8月刊所収)を公刊した。いずれも、従来の通説的理解とは異なる側面を照射する結果となっている。
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