当面の重点課題としては、第一にプラトン・アリストテレスを中心としたギリシア的な「ロゴス」概念の実質を見直すこと、第二に、それど連動しつつ、初期ギリシア哲学のもつ意味を捉え直し、むしろその流れがギリシア思想全体の基調をなすものであることを明らかにすることに努めている。特に、プラトンの対話篇構造の意味するものの解明に主たる関心を集中させてきた。この問題に関わる研究は最近きわめて活発化しており、諸研究の批判的検討を重ねるとともに、現在その成果を著書として取りまとめる作業を進めているところである。 これまでの成果としては以下のものがある。論文「対話と想起-プラトンの「方法」-〔その2〕」は、プラトン哲学の発展において一つの画期をなす「想起説」を主題的に取り上げ、それを従来の解釈とは異なった観点から見直そうと試みたものである。特に『メノン』『パイドン』の当該箇所をたんねんに読み直すことで、それがいかに根本的にプラトン哲学全体を方向づけているかを明らかにするとともに、プラトンの思想の特質にも論点を及ぼす。また、論文「解体する自然のさ中なる生-エンペドクレスの新発見断片によせて-」および「西洋古代哲学案内」(『西洋古典叢書がわかる』所収)は、いずれも従来の通説的ギリシア理解とは異なる側面を照射することに努めている。その他、「古代ギリシアにおける学の理念と内実」「古代ギリシア・ローマ世界とわれわれ」「獣と神の間で-教養ということ-」などの論文では、古代ギリシアの思想・文化の特質と、それを反映した独自の人間観の解明を追求している。また、ガレノスを中心とする古代医学思想の解明についても、現在成果を取りまとめているところである。
|