研究概要 |
イラン・イスラーム文献が描くモンゴル時代の世界像を研究する第1の作業として,入手済のイラン・イスラーム文献古写本のマイクロ・フィルムのなかから,とくに緊急性の高いものを選んで焼きつけ,複写を一部ずつ研究分担者に提供して解読をすすめた。その結果,モンゴル時代のイラン・イスラーム地域における世界認識は極めてすすんでおり,中国・中央アジア・中東・インド・ヨーロッパの各文明圏について確実かつ具体性のある知見を有していたことが克明にわかってきた。また,これらの各文明圏の主要な国家や王朝の興亡についても「政権交代系統図」とでもいっていいビジュアル化した文献とそれにもとづく認識が,少なくとも支配層であるモンゴル王族・貴族とその政権担当者たちには確実に在したことが判明した。一方,モンゴル時代の関連する多言語文献,なかでも厖大な情報量のある漢文文献についても,完全同時代の元代刊本による元代典籍文献のマイクロ・フィルムからの写真焼きつけをすすめた。その結果,現在までの時点において,中国史上でも画期となる世界認識のいちじるしい拡大・変化がモンゴル時代に生じていたこと,そしてそれはイラン・イスラーム文献の研究からえられる中東における世界認識とあきらかに連動しており,アジアの東西をつらぬいてかつてない真の世界像の出現がモンゴル時代に訪れていたことがほぼ判明した。さらに,モンゴル時代の世界像を直接に示す「世界地図」の撮影・焼きつけをすすめつつあるが,その詳細なデータ整理にようやく取りかかったところであり,次年度に整理・研究を終えたい。
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