研究概要 |
平成12年度までの研究によって,モンゴル時代のイラン・イスラーム地域における世界認識は,13・14世紀の当時としては極めてすすんでおり,東は中国から中央アジア・インド亜大陸・中東をへて西はヨーロッパにいたるまで,諸文明圏にまたがって文字どおりユーラシア・サイズで,従来の常識的見解をはるかに上回るレヴェルで確実かつ具体性のある知見を有していたことが克明にわかってきた。これは,人類史の理解を書き換える意義をもつ。15世紀末以降の西欧人の「地理上の発見」までは,人類は各文明圏の枠のなかで相互に孤立しあっており,文明圏をこえたかたちでの世界の客観的イメージや具体的な全体像をもつことはなかったとする"通念"は,ヨーロッパ近代の知のなかで創作された虚像であったといわざるをえない。 以上を踏まえて,平成13年度についてはモンゴル時代の世界像を直接に示す「世界図」について撮影・焼きつけ・閲覧・調査・分析などをすすめた。とくに東アジアがつくった現存最古のアフロ・ユーラシア図ともいうべき『混一疆理歴代国都之図』とその影響下にある一連の「世界図」については,有名な龍谷図と本光寺図のほか,京都妙心寺麟祥院に蔵される「世界図」を克明に調査し,それが『混一疆理歴代国都之図』のイメージを図の名に引きずりつつも,その一方で明代の別図の影響を顕著にうけつつ成立していることが確認できた。あわせて天理図書館所蔵の「世界図」についても本格的な調査を開始した。
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