本研究は、中国六朝から清代に至る言語規範意識を通時的に観察するとともに、そうした言語規範の制度化の過程を追跡する計画の一部である。本年度は唐宋代に重点をおいた調査研究をすすめ、(1)南北朝時代以来の士族・庶族という社会階層の対立が唐代吏部試の「身言書判」制度の背景にあること、(2)文化的中心が江南地域から関中地域へと移動したことにともなう社会階層・文化規範意識の変動が、唐王朝の成立から約100年を経た8世紀初頭に顕在化し、その結果、言語史上の目立った音韻変化などが記録されるに至ったと想定されること、を独自に提示した。科挙の実施による、唐代から宋代にかけての字体規範化・制度化の経緯についても考察をすすめつつある。また、時代間の対照研究をおこなう必要から、唐代に始まる言語規範制度化が最終的に完成した清代の状況につき、漢文「実録」や制度史史料を利用した調査に着手し、宮廷内における声の規範が清朝皇室を中心に定められた経緯を明らかにした。 以上のほか、中国古典学の研究現況・今後めざすべき方向性をめぐる討論を深めるため、12年7月15〜16日にシンポジウム「文化的制度としての中国古典」(講演・報告14篇の内容は、『古典学の現在II』、本特定領域研究総括班事務局、13年2月刊、として公刊)を開催し、中国文化史・文学・語学諸領域にわたる総合的な討論をおこなった。これ以外にも、研究の進展・必要性に応じて国内外から関係研究者を招待し、11年10月31日に北京大学李零教授講演会、同11月23日に「中国歴史言語学討論会」(コーネル大学梅祖麟教授を招聘)、13年2月22日に「翻訳の文化史」研究会(高麗大学校鄭光教授を招聘)を主催、個別の具体的問題点をめぐって、聴衆を交えた意見交換をおこなうことができた。
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