本年度は、研究の初年度として、研究の基礎作業に着手した。 (1)まず、六朝期の学術、特に語学史的見地から参照可能な先行文献の目録作成に着手した。これはほぼデータを収集し終わり、入力作業を順次進めつつある。 また、作業の過程で、中華以外の周辺諸民族の歴史や民族学的研究が不可欠であることを痛感し、民族の移動と定住にともなうアイデンティティの変容に関する社会学的研究業績を、集中的に収集し学習した。これらに関しても、順次目録を作成しつつある。 (2)南朝と北朝の双方を熟悉した学者顔之推の著作『顔氏家訓』をもとに、当時の教養のあり方を整理し、特に彼が重視した「ことばの規範」に関して、北朝末期の認識と南朝最盛期の言語観とを比較検討した。これに関して、論述をまとめつつある。 (3)六朝文人の中から、南北の学問が衝突する場に当事者として立ち会った南人陸機・陸雲兄弟、そして南朝最盛期の学問を代表し、特に鋭敏な言語意識を有していた沈約、さらに後生その評価は下降するにもかかわらず、同時代にあっては絶大な支持を集めた劉孝綽、この三者の伝記を翻訳し、当時の知識人の生涯とその理念に関する理解を深めた。 (4)台湾中央研究院作成の電子テキスト検索システムを使用し、北朝の言語政策を反映する史実に関してデータを集め、それに対して分析を加えた上で、論文作成の為の資料を順次作成した。来年度以降、最近公開の北京大学中文系作成の電子テキストを使用して、規範語の代表としての詩文の中から語学史的見地から有用な作品を収集し、実際の分析に移るが、それは今年度の作業をその基礎フォーマットとする。
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