本研究は、『大唐六典』全30巻の最良のテキストである、太政大臣の近衛家煕が校訂出版した、いわゆる〈近衛本〉の成立過程を綿密に跡付けるのを目的として開始された。その切っかけは、大正末年に内藤湖南によって紹介されながら、杳として行方不明であった近衛家煕自筆の稿本が、京都大学附属図書館の棚から70年ぶりに再発見され、私自身が確認して、京都大学附属図書館の近衛文庫に加えて貴重書扱いにしていただいたことにある。その稿本は、かの新井白石から贈られた写本に書き加えつづけたもので、近衛家煕自身の手によって、正史や通典などと対校され、朱と墨のみならず青色などの多色の筆づかいがなされている。そこで、多色による注記や張り継ぎの箇所など160枚については、特にカラーポジ撮影をするとともに、全巻をマイクロ複写し、焼き付けを完了することができた。刊本の家煕考訂本『大唐六典』全巻に対して句読・訓点および書き入れをした広池千九郎の成果は、内田智雄による補訂をともなって、広池学園事業部より出版されて(広池本と呼ばれている)、その影印本が西安の三秦出版社から出されている。ところが句読や書き入れに妥当でない箇所が散見される。そこで、本年度においては、京都大学文学部や内閣文庫に所蔵される政書などを参照しつつ、広池本における疑問点を一つずつ吟味する作業を続けた。諸本との校合に際しては、京都大学大学院文学研究科博士後期課程の米田健志君に協力していただいた。
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