本研究では、日本において古代に発生した漢文訓読文が現代にいたるまで、日本の文体史的発展に与えてきた影響を実証的に検証することを目的としてきた。 具体的には、まず動詞「をり」の発展を取り上げ、いわゆる和文的文脈と漢文訓読文的文脈における位相差を明らかにしようとした。その結果、上代においては「ゐる」の状態形として普通に用いられていた「をり」が、平安時代の和文では特殊なニュアンスを持った動詞へと変貌する一方で漢文訓読文ではなお用いられ続けたこと、さらに、このように文体間で語棄の評価に違いの現れることが決して珍しいことではないことなどを確認した。 また、近代日本語に特徴的な語彙であるとされる三人称代名詞「かれ」を取り上げ、近代の英文和訳以前に、中国白話小説の翻訳などで人称代名詞としてある程度安定していたことも明らかにした。 その他、高山寺を中心に経典の実地調査を行うとともに、聖教目録データベース、指示詞研究文献データベース等を作成、インターネットを通じて公開している。
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