研究概要 |
古典期ローマ法が帝政後期とりわけ、ディオクレティアーヌス帝治下において、どのように受容され変容したかは、長らく争われている問題であり、本研究は資料の立入った分析により再検討しようとするものである。 若年者(25歳未満者)が保佐人を有する場合に、若年者には浪費者と同様財産管理権限がないとするディ帝勅法(勅法彙纂2巻21章第3法文-293年)が、同帝のもとでの改革を示すものとの見解が有力に主張されている。これに対し、学説彙纂4巻4章第1法文に採録される「たとえ自己の財産を良く管理するとしても、25歳未満者は保佐人の助力を必要とする」というウルピアーヌス告示注解第11巻の記述を(従来の多くの見解とは異なり)真正のものであって、ユ帝による修正を経ていないと考えられること、そのことは、同章第3法文(ウルピアーヌス)により伝えられる、セプティムス・セウェールス=カルカッラ両帝が若年者への財産管理権限付与を極めて例外的なものと見做したという事実とも対応すること、また、保佐人をもつ若年者の法律行為(売却、訴訟行為C.2,21,3、C.2,26,4)が一切無効であり、原状回復をも必要としないことも、若年者の財産管理権を否定すれば当然の帰結であることが明らかとなった。(以上の内容は、第55回国際古代法史協会会議(ロッテルダム)において報告し、大方の承認するところとなった。) なお更に、若年者原状回復に関するこの他のすべてのディ帝勅法を検討したが、ディ帝による改革とみられるものは見出しえなかった。従って他の法領域についても、従来のいわゆるディ法改革といわれるものが本当かを検討することが、次年度以降の課題である。
|