研究概要 |
インド大乗仏教の二大潮流の一である瑜伽行唯識学派が、あまたの聖典(アーガマ)を取捨選択しつつ継承し、自学派の思想形成を如何様に成立せしめたかを、無著造『顕揚論』を中心に考察した。研究初年度の本年は同学派の思想の根幹をなす三性説について、ニ諦の視点から考察を試みた。要旨は次の如くである。 1.『顕揚論』の三性説はいずれも主に『瑜伽論』「菩薩地」攝決擇分「眞実義決擇」を継承したものである。 2.『顕揚論』が三性説を世俗・勝義のニ諦(特に勝義諦)として説くのは、般若経典を教証とする伝統に基づくものである。なおこの伝統は『中論』第24章第8偈にも引き継がれている。 3.『顕揚論』において三性説がニ諦の構造をもって説かれる背景には、瑜伽行学派に固有にして共通の「盡所有性・如所有性」の思想があることに留意すべきである。そのうち如所有性が勝義諦に対応することは、『顕揚論』に遡ることができる。 この研究成果は、「古典学の再構築」B01伝承と受容班研究会(1999,11,27,於京大会館)で口頭発表し、加筆訂正の上、『戸崎正宏古希記念論集』に「『顕揚論』における三性説管見」と題して発表した。また仏教聖典(アーガマ)資料に基づき、インド世界に於ける「老い」の問題を追及し、「高齢者環境の再生」と題して、長崎大学公開講座叢書12『地域環境の創造』に発表した。 次年度は、雑阿含経典→『瑜伽論』摂事分/摂釈分→『顕揚論』の流れを重点的に追及し、聖典継承の系譜研究に専念する予定である。
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