研究課題/領域番号 |
11164264
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中川 純男 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (60116168)
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研究分担者 |
高橋 通男 慶應義塾大学, 言語文化研究所, 教授 (00012500)
西村 太良 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (90164590)
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キーワード | ホメーロス / スコリア / ヘレニズム / 中世写本 / アリュージョン |
研究概要 |
近代以降における古代ギリシアの諸文献の研究において中世写本の余白に書き込まれているメモ,すなわちスコリアの果たした役割は非常に重要である。これら中世の諸資料に残されたアリスタルコスを代表とするヘレニズム期のホメーロス研究に関するメモはほぼ10世紀以上に亘って写し継がれてきた。この長い年月の間にこれらの資料がヘレニズム期のホメーロス文献学の実態をどれだけ正確に伝え得たのか。ヘレニズム期の学者たちが著わしたホメーロスに関する文献が伝存していないので、このことの確認作業は極めて困難である。しかし、ヘレニズム期の詩人たちの、特にヘクサメトロンによる詩がホメーロス文献学の資料としてかなり役に立つものと考えられる。というのは、これらの詩は二つの重要な特徴を有するからである。第一の特徴は、これらの詩人たちのは殆どがアレクサンドリアのムーセイオンにおいて古典文献学の研究に携わった学者であったという事実である。第二の特徴は、彼らがホメーロスの叙事詩を、この時代に流行した独特の方法を駆使し、模倣して作詩したということである。彼らはホメーロス研究から得た該博な知識を詩作において活用した。つまり、ホメーロスの語彙、詩句、モチーフ、等々を使って詩作したのである。しかし、単なるホメーロスの模倣ではなく、ホメーロスの叙事詩を利用しながらこれに様々なヴァリエーション加えてそれぞれの独自性を競ったのである。特に彼らが好んで利用したのはホメーロスの稀語、難解語、議論のあるテクストの読み、稀な表現、文法的に議論のある箇所、等々である。つまり、彼らはこれらのものを作詩に際して利用しつつ議論のある問題についての自分の意見、解釈をも表明するのである。しかし、これらの事柄は一見したところ判然とは判らないようにアリュージョンのもとに詩の中に埋め込んだのである。
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